
コーポ・ア・コーポ④ 松永姉について
作品に対してよく人間が描けている(いない)という評価がなされることがあると思うが、岩浪れんじ氏の作品を読むと私はちゃんと人間が描けて無かったんだと実感する。
全6巻のうち1~4巻を読んで5巻、6巻は面白いに決まっているだろうという理由で読むのを後回しにしていて、別媒体で同作者の新連載が始まったのもあって読もうとしたが、それまでの内容を忘れていたので読み直している時に4巻第20話松永姉の回が気になって何回も読んだ。最初は正直誰のなんの話かよく分からなかったので読み返す感じだった。この漫画はとあるコーポの住人を中心に展開されるが、ロシア文学くらい登場人物が多く、主人公(視点人物)が回ごとに変わるため、ある程度人物相関図を把握していないと内容が頭に入らない部分もあるからだ。
松永姉はコーポの住人では無く、コーポの一室を覗き部屋にしている老人、の所にたまに来る中学生の友人(松永)の姉で、主要キャラクターからはめちゃくちゃ遠いしほぼ関係無い。
あらすじは弟に会うために遊ぶ予定をキャンセルしたいと言う彼氏に対して松永姉が疑念を抱き、当日までやきもきしながら過ごすみたいな話。松永姉のバイト先を主な舞台として展開される。
問題が解決した後、小銭を両替してくれるコンビニをコーポの住人である辰巳ユリから教えてもらうくだりで終わる。そこで松永姉がユリに対して「こーゆー人もキレたり色々あったりすんのかな」と考える場面があるが、出てくるキャラクター全てが生身の人間のように描かれていて、それぞれに背景が感じられるので、日々を生きる中でその色々を作者なりに想像した結果が各話に反映されているのではないかと思う。それゆえ自然と登場人物も増えるのかもしれない。関係性もあれだけ遠かったのに、ちゃんとどこかでは繋がってるんだなとも思う。
この話の中で松永姉の前の彼氏(おそらく松永姉が振った)はバイト先の同僚である沢田という女性を狙っていたが、このキャラクターが個人的に好きで読み返していたのもあった。喫煙者でしょっちゅう「コッ」というタンコ(舌打ち)を鳴らす。勤務態度は真面目で律儀。無表情だがおそらくそれを自覚していて心を許した相手には自虐するようなギャグも披露してくれる。今回の主人公では無いが、かなり癖があるので気になってしまった。
中でも印象的だったのは松永姉の元彼と六甲山に行き、頂上で夜景を撮るために携帯を出さなくていいか訊かれた際の「高い所で貴重品出すの怖いからいい」という台詞。この一言に沢田というキャラクターの性格がよく表されている、というか人間がどこまで許容できるか、自分を出すか出さないかのラインみたいなものが一言でわかるのが秀逸だった。あと華倫変氏の『赤い鎖骨』も最近読んだので神戸では六甲山が定番のデートスポットなのかと思った。ここで言う六甲おろしについては調べてないもののなんとなく想像は付く。
この沢田が主人公の回も6巻の最終回直前に存在する。沢田さんのエピソードを補完していただきありがとうございますという気持ちしかない。
