
9期投稿練習:好きな漫画『花もて語れ』片山ユキオ 東百道
この作品の題材は朗読です。
朗読のテクニックについて解説している漫画、として読めるのですが、そこに留まらず、朗読の意義とは、さらに、読まれる対象である文学作品の価値とは、という深みにまでテーマが及びます。
小説や詩などの登場人物は、読者とそっくりの年格好だったり、同じ時代や国地域で生きていたりする訳では、必ずしもありません。にもかかわらず読者が、これは自分の話だ、と感じることがあるのは、感情という現象が普遍的なものであり、登場人物たちのおかれた状況においては自分も同じ感情をいだくだろう、と共感するからです。
朗読では、登場人物たちのおかれた状況を精確に把握すればするだけ、更に聴衆に精確に伝えれば伝えるだけ、鮮烈な共感というご褒美が待っています。この作品では、そのことを複数のエピソードで読者に教えてくれます。
このブログ投稿に際しては巻数を指定することになっておりますので、ここでは1~2巻、宮沢賢治の『やまなし』のエピソードを挙げたいと思います。
「クラムボンはカプカプわらったよ。」
この謎めいた文章で有名ですが、主人公が、本作品を丹念に読み解くことで、これが幼い兄弟の成長譚であり、親の愛情の物語であることが明らかになっていきます。
主人公が読み聞かせる相手、心を閉ざした深窓の令嬢は、何度も本作品を読んだことがあり十分わかっていますが何か?という態度で臨んでくるのですが、主人公の朗読を聞くうち、幼い兄サワガニの心情の新たな見え方を獲得しながらシンクロすることで、弟サワガニや父サワガニの心情を再発見し、それが今の自身の境遇と重なって見え、姉妹や親の心情を想像するまでに至ります。
彼女はその朗読体験で得た感情を軸に、世界を改めて理解しなおし、人生を肯定してみようという気持ちが芽生えます。
この「花もて語れ」という作品は、全体を通じて、分かりやすいキャッチーなアピール、エロや暴力や正義の振りかざしやら他人の不幸みたいなもの、に抑制的です。さっと読んで、良いね!とはなりにくい作品かも知れませんが、私自身の作品に対する見方や態度には後戻りできない程の影響を与えてくれました。このように背筋が伸びる作品を私は大事にしたいと思い、この機に紹介させていただきました。
最後に、8期の授業を通じて、おそらく一番多かった指導は、伝わるように描く、という事だったかと思います。フワッとした表現でとどめて後は読者の解釈に委ねるという態度ではなく、ちゃんと作者が解釈を定めて、描いたもので伝えるんだ、というそのご指導を念頭に、本投稿も書いてみましたが、本当に難しいですね。
引き続き、研鑽あるのみです。
