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建築設計と漫画の文法②


前回に引き続き第二回の感想文です。
今回も変なタイミングで恐縮ですが、ご笑覧頂けますと幸いです!

 

−−−

 

漫画と美術館の計画は、似ている。改めてそう感じたのは、上野にある東京国立博物館の別館、法隆寺宝物館を訪ねたときだった。

 

 

一般に、建築を計画するときに重要視される点は、その用途によって異なる。
例えば、賃貸オフィスビルの計画では、貸し出すことのできる床面積をいかに確保できるかに重きがおかれ、それ以外の部分、廊下や設備機械室はなるべくコンパクトに抑えることが求められる。一方、小中学校の計画では、各室の床面積よりも校舎全体を学びの場として設えることが重要で、教室はもちろん、廊下等にもオープンスペースや展示コーナーを配置しながら学びや交流の場となるよう計画する。

もちろん、利用者にとって使いやすく、居心地の良い空間を計画することは共通の課題としてある。また、これらの視点とは違った角度から新しい建築が生まれてくることも多い。ただ、建築の用途によって計画の形が大きく左右されることは、用途によってその適用範囲が変化する、建築基準法にも現れている。

 

法隆寺宝物館外観(筆者撮影)

 美術館の計画では、その建築を訪れた人が、どのような動線を描くかにその特色が現れる。動線計画は基本的には一筆書きで、その中でどのような空間を体験し、場面に遭遇するかという「シークエンス」がその館の印象をかたちづくっている。

 

2024年5月11日にひらかれたひらめき☆まんが教室で登場した「流れ」と「止め」についての語りは、美術館でいうこの「シークエンス」の計画と結びついて聞こえた。
主任講師のさやわか先生とゲスト講師の武富健治先生から語られたのは、次のようなことだ。
漫画には、その誌面上で右上から左下に向けて流れる川の流れのようなものが常にある。それをただひたすらに流してしまうとどこに目をとめていいのかわからなくなるので、流しては止め、流しては止め、というリズム感をつくることが重要である。

 

どのようなプロポーションのコマを置き、その中にどのような絵を描くのか。それによってリズム感を生む漫画の描きかたは、一筆書きの動線上にどのような大きさの空間(コマ)を置き、どのような場面(絵)をつくるのか、という美術館の計画に似ている。

 

法隆寺宝物館正面(筆者撮影)

 

なかでも、正面を向いたコマでこの流れを止めるときには、ひとつ前のコマに右向きのコマを挿入するのだという話が強く印象に残った。激しい流れの中では、正面を向いたコマをひとつだけ唐突に置いても、それまでの慣性によって少し左に流れてしまう。直前に右向きのコマをひとつ挿入、流れをゆるやかに抑えることで、初めて読者は正面を向いたコマで止まってくれるのだという。

 

冒頭に登場した法隆寺宝物館を訪ねたとき、この話を思い出した。
法隆寺宝物館は、次のような形で計画されている。
東京国立博物館を正面に据えた中央広場から、少し脇に外れた位置に館までの経路は設けられている。少し迂回しながら館へと向かうと、建物正面には広々とした水盤が設けられていて、来館者はそこで一度足を止められる。館の出入口は正面から外れた位置、そこまでの経路とはやや反対側に設けられていて、北側に迂回して水盤内の通路を渡ると、館に入る直前でまた小さな壁に遮られる。その壁を回り込み、小さな風除室から館内に入ると、ようやく3層吹抜の巨大なエントランスホールに直面する。

 

法隆寺宝物館を訪ねると、ジュライエローの大壁面が建ち、トップライトからの光が差し込むこのエントランスホールが強く印象に残る。この空間の象徴性がここまで効果的に働いているのは、その場所に至るまでの幾度かの迂回に加えて、直前の小さな壁によって流れがゆるやかに抑えられているからじゃないか–。

 

法隆寺宝物館内観(筆者撮影)

 

この法隆寺宝物館を設計した谷口吉生さんは、MoMAを始めとして国内外で数々の美術館を手がけている日本を代表する建築家の一人である。講義の中では漫画の「流れ」と「止め」は、歌舞伎等の日本の文化と関係があるのではないか、との提起がなされたが、谷口さんもまた、日本建築の特質にしばしば言及する建築家でもある。

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