【WS】『スラムダンク』を通して『アオアシ』を読む
『アオアシ』を読みながら、ぼくは『スラムダンク』を思い出していた。
バスケットボールは5人しかレギュラーになれないが、サッカーは11人がレギュラーになれる…キャラクターの成長がマンガの読者に喜びを与えるとすれば、このサッカーマンガはバスケットボールマンガの2.2倍喜びの数が多い…
成長するよろこび
『アオアシ』と『スラムダンク』は共通点が多い。どちらも荒削りだが稀有な才能を持った人物が主人公で、しかも主人公が抱いた夢は早々にくじかれる。読者としてぼくが感動するのは、そんな主人公が自分の理想とは違うところで成長する瞬間だ。
『スラムダンク』で言えば、主人公の桜木花道が基本に忠実にレイアップシュートを決めたとき。リバウンドが通用したとき、ミドルレンジからのシュートを決めたとき。桜木花道は、いつでも派手なスラムダンクを決めたいのに、周囲から求められるのは、彼にとってはつまらない、地味な役割だ。スラムダンクではなくレイアップ、そしてリバウンド。
しかし「リバウンドを制するものは試合を制す」という言葉で、彼はバスケの深い魅力に気づく。それは、バスケに関してロクな知識を持たない読者をも感動させる。
『アオアシ』の主人公・青井葦人は、サッカーで点を取るのが自分の強みだと勝手に感じている。しかしクラブユースに入ったあと、監督から求められる役割は、ディフェンダーのポジション、サイドバックだ。フォワードを目指していた彼にとってそれは挫折だが、類い稀な視野の広さを持っている彼の才能が最大限に活きるのは、サイドバックだった。フォワードからサイドバックへの転向は、葦人のサッカーに対する認識が、劇的に変わる瞬間でもある。
『スラムダンク』がダンクからリバウンドに視点が移り変わるのと同様、『アオアシ』もフォワードからサイドバックに移行していく。攻撃メインだったのが、守備をかねた攻撃に変化するのだ。
ちがい
ここまで共通点を列挙してきて、主人公が成長することに関しては類似点が多いことがわかった。一方で大きなちがいは、一緒に成長する仲間の存在だ。バスケのレギュラーは5人だが、湘北高校の桜木花道以外の4人はすでにプレイヤーとして完成されている。出てきた当初からうまいのである。桜木とともに成長していく「仲間」は存在しない。
そういう意味で『スラムダンク』が31巻で終わるというのは、必然だったかもしれない。桜木花道は高校1年生。高校バスケ部という制約があるため、話が展開すればレギュラーの3年生は抜けてしまう。これ以上、話がつづけば、花道の次なる課題は、新年生とどうチームワークを築いていくか、という後輩との関係性に移行することになる。もしくは、そんなものは無視して全国大会を続けるか、一気にNBAに行くか。
『アオアシ』はクラブユースという舞台設定を使うことで、『スラムダンク』にあった制約を取り除いた。同期の仲間が複数人いて、脱落する仲間もいるが、共に成長していく仲間もいる。クラブの中で上に上がれば、そこにまた新しい仲間ができる。ユースの上にはさらにJリーグのクラブの存在があり、Jリーグの先は欧州リーグと、わかりやすい段階もある。『スラムダンク』に比べて、成長の軌跡を描きやすい。
ユースチームの仲間たちの存在
桜木花道は孤独に成長する。練習仲間は不良時代の友人たちか、マネージャー、もしくは圧倒的な差がある先輩。一方で青井葦人は同期の仲間とともに練習を重ね、その仲間たちも共に成長していく。だから、葦人以外の選手の成長も読者は楽しむことができる。
もちろん『スラムダンク』も主人公以外のキャラクターには十分な魅力があり、それぞれが試合で活躍する様には感動させられるのだが、それは成長ではなく、「熱さ」に由来する。足の怪我を押して出場したキャプテン赤木が、ライバルに立ち向かっていく姿。ヤンキーになったためにスタミナを激減させた三井が、倒れかけながらもスリーポイントを決める姿。チビだとバカにされながらも、その小ささを逆に利用してドリブルで駆け抜けていく宮城。気持ちの熱さが魅力だ。その点、『アオアシ』は、はっきりと成長を描いている。怪我を押して無理するのはクラブユースには似つかわしくない。選手たちは勝とうともしているが、あくまで求められているのは、熱さよりも成長である。
『アオアシ』は主人公以外のキャラクターたちが成長していく。これが、『スラムダンク』と同様の構造でありながら、『スラムダンク』にはない魅力を作り出している要因だ。『アオアシ』は間違いなく青井葦人の成長物語だが、その他のユース選手の成長物語でもある。その無数の成長に、読者は感動させられるのだ。