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【体験レポート】浅野いにお先生へのインタビューに同行したら、漫画業界の未来について考えさせられた


「作家は顔を出した方が良い」という言葉を聞いて、私はとても驚きました。なぜなら、今の日本では、特に漫画家さんなどで顔出しをしている人はごくわずかですし、プライバシーの問題から出さない方が良いとも思われているからです。

 

しかし、浅野先生は、これからの作家の理想像について尋ねた私の質問に、ご自身の考えとともにこの点について語ってくださいました。

 

つまり、AIが発達してきている今、作家が顔を出さなければ、本当に自分が作ったものであるということの証明ができなくなってしまうため、作家自身が顔を積極的に出していって、自分の作品と自身の顔を結びつけていくことが必要であるということなのだそうです。これはきっと、いま漫画業界が急速に変化していっている中で、浅野先生が様々な挑戦を繰り返してきた故のお考えの一つなのでしょう。

 

今回は体験レポートという形で、私が浅野いにお先生のインタビューに同行し、その場で語られたことについて感想を述べたいと思います。

 

1.創作の初期衝動

 

浅野先生のインタビューを振り返って感じるのは、浅野先生は本当に色々なことへチャレンジしていく方だなということです。現在連載している「MUJINA INTO THE DEEP」に関しても、「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」では描けなかったことや反省を踏まえて、今までご自身が描かれてこなかったアクション作品へ挑まれているそうです。

 

浅野先生の作品といえば、登場人物たちが抱える悩みや葛藤を、作中の人間関係と共に深く繊細に描いていくスタイルの作品だと私は思っています。絵としてもどちらかといえば静かで淡々としたシーンが多く、アンリアルエンジンなどで制作した3Dモデルを駆使して作られたリアルな背景のなか、キャラ同士のやり取りと心理描写でヒキを作る作風です。

 

そんな先生が今までの作風とは全く違う、血や肉片が飛び交うアクションシーン満載のバイオレンスな作品を描くことは、きっと想像以上に大変なことだったと思います。今まで培ってきたスキルが活かせない部分もありますし、経験のないことにも未熟と理解しつつ取り組まなければならないこともあるでしょう。それでも新しいことにチャレンジして、自分の可能性を広げる努力をし続ける。そんな部分こそ、浅野先生の魅力なのだと考えます。

 

「飽きっぽい」とご自身のことをおっしゃっていた先生ですが、逆に言えば、飽きたら別のことへどんどん興味を持っていけることの裏返しでもあるのかもしれません。初期衝動という言葉をあえて使うなら、この「飽き」こそ創作の初期衝動として大きな力を持つのかもしれないと、お話を聞いている中で感じました。

 

2.漫画と漫画家の未来について

 

今回、先生のインタビューに同行させていただいて一番興味深かったのは、浅野先生の考える漫画と漫画家の未来についてでした。冒頭にも少し記載しましたが、先生はこれからの漫画家について、自分のリアルの顔を出した方が良いとおっしゃっています。

 

また、生成A Iの使われ方について、なぜA Iという高度な技能を持つツールを用いて、今、みんなが作っている漫画を描かせるような使い方をしているのだろうかと疑問を呈していました。つまり、AIは今までのやり方では生み出せないような、新しいものを生み出せる可能性を持っているはずなのに、なぜかそこに価値を見出さず既存の作品の模倣ばかりさせている。

 

これではただ手抜きしただけの作品が生まれてしまうだけで、ブレイクスルーは起こらないとおっしゃっていました。この話を聞いた時、私はとても共感しました。つまり、私たちは今の漫画にあまりにも適応しすぎてしまっているし、今の漫画が経済的にも強いが故にその中で完結しすぎてしまっているということなのでしょう。だからこそ、漫画として新しい技術や表現が生まれることも少なく、イノベーションも起こりにくい環境にある。

 

したがって、AIという新しい技術が出てきても、それを用いて新しい漫画を作るようなことはしないし、それを考えられる人もいない。これはある意味、とても危険な状態のような気がします。

 

いま、漫画業界は過渡期にあります。

コロナ禍を経て電子漫画の市場が急激に伸び、漫画業界は全体として隆盛を極めました。しかし、その勢いには陰りが見え始めていて、巷では今が市場のピークであるとも言われています。ここから先、緩やかに市場が低迷していき漫画バブルが弾けると、増えすぎた漫画作品や漫画プラットフォームは次々と打ち切られていくことでしょう。

 

そんな時、業界の中で生き残れるのは、新しい技術を味方につけた、新しい時代の漫画家なのではないかと私は考えています。

 

なお、新しい漫画の形として注目されたWEBTOONも、蓋を開けてみればそのフォーマットに適応できるジャンルが少なすぎて多様性はなく、結果としてすでに縮小傾向に向かっています。NETFLIXやAmazon Prime、 YoutubeやTikTokなどの動画メディアが人気を博している今、余暇時間の奪い合いによってさらに競争が激化すると予想される漫画業界での生き残る方法の一つとして、漫画家はAIと向き合う必要があるのではないでしょうか。

 

そんなことを考えさせられる、浅野先生へのインタビューでした。

 

3.漫画を読者に届けるために

 

今回、浅野先生のお話を聞いていて,改めて考えさせられたことがあります。

 

それは、「漫画」の出口の少なさです。漫画は、漫画作品として人気が出ると大抵アニメ化またはドラマ化されます。そして、漫画を普段あまり読まない人にも作品との接点を作り、メディア化きっかけで作品を好きになった人が作品を購入する。こうすることでメディア化前よりも出版社や各関係者は莫大な利益を得ることができるというのが、漫画が頻繁にメディア化される仕組みです。

 

しかし、裏を返せば漫画は現状このやり方しかほぼ「出口」がなく、故にテレビ業界との結びつきを否応でも強くしないといけない状態です。その結果が、『セクシー田中さん』のような事件を生み出してしまう要因にもなっているのではないでしょうか。

 

この点に関して、個人としても日ごろ作家と向き合う立場にいる身としても、なんとかしなければならないと感じています。依存が深まれば物事の優先順位がおかしくなり、利益追求のために冷静な判断ができなくなってしまいます。その結果として、作家や作品に対して不幸なことが起こってしまう。それを回避するためには、漫画の「出口」を増やす取り組みが必要です。

 

この出口を増やす取り組みを、私個人が今後、成し遂げたいことの一つに掲げたいと思います。より多くの作品を、まだ見ぬ多くのファンに届けられるような事業を提供する。インタビューを聞いたことで、その思いが強まりました。

 

4.まとめ

 

今回のインタビュー同行は、私にとってとても素晴らしい体験でした。第一線で活躍されている作家さんのお話を聞けることは私にとって非常に興味深く、また考えさせられることも多かったです。今回の学びを活かして、自分の今後の創作活動や作家さんたちとの向き合いに活かしていきたいです。

 

このような貴重な機会をくださったひらめき☆マンガ教室には感謝しかありません。本当にありがとうございました!

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