創作への取り組み①
先月はネーム模写とその意図につきましてご好評いただきありがとうございます。ついつい自信のなさから模写中に文字を詰め込んでしまいました。
確かに本来それはことば以外で伝わらなければならないもので、それを伝える方法をトレースするのがネーム模写の妙ですね。
引き続き模写を重ね、作家の固有性を見つけられる下地を作っていきたいと存じます。
というわけで、ひきつづき学びたいものが学べそうなものを選んで模写はしてるのですが、そうした模写の過程は作品ではないわけで、選評をお願いする投稿には不適と考えました。
以前の投稿に記させていただきましたとおり、正直現状はまずマンガを知ろう段階ではあるので、では今回は何を投稿しようかと考えると手が止まってしまった次第です。
しかし、手を止めていても仕方がありません。
何か前に進まなければとあれこれ考えました。
考える中、結局思い至ったのは、
やはりマンガを知るために模写をはじめた以上、今年度中に1つは次作のマンガを描いてみたいという結論でした。
ですが、いざ描いてみようとあれこれ情報収集し始めると、当たり前と言えば当たり前ですが、とてもじゃないが一朝一夕に描けるものではないと思い知らされます。
描こうにも具体的な手順も曖昧で、かつ曖昧ながら浮ぶ行程も具体的にどうするか考えるとさっぱりな状況でした。
困った状況です。
ひとまず恐る恐る調べる中でマンガ制作過程を自分なりに考えました。
以下のような形です。
- ストーリーを考える
- 場面をある程度配置
- 場面毎にコマ割りを考える
- コマ毎に伝えたいものを具体化
- 伝えたいものを伝える方法を具体化
- ネームを作る
- ペン入れ
定まった流れはないのかも知れませんが、初めて取り組む身としてはコマ割り以降が未知の領域な訳で、まずは1~2でビジョンや物語の大きさを固めてから望むべきではと考え、上記の流れを組みました。
前置きが長くなりましたが、そう言ったわけで、今回は1~2の部分を考え、それを元に御意見を是非伺いたい次第です。
具体的には
マンガは作画と原作者が別の場合も増えており、その場合原作者はどういった形で物語の部品を形成するのか?
という点を伺いたいです。
マンガにおける原作者は、テキストで物語の必要要素を説明する場合とネームの形まで仕上げて共有する場合の2つがあるのではと存じます。
今回自分が取り組んだ自己流マンガ過程の1と2はいわば前者のマンガ原作者の役割と重なる行為だと思います。
話を具体化するため、まず、今回自分が進めた1と2を以下に記したいと思います。
自分は初めに物語の規模などの外観想定を言語化した後、ストーリーと場面構成を説明する文章、登場人物の背景など作品内では非言語的な側面として盛り込むべき情報を記した文章の2つにわけて作成してみました。
〈物語の外観〉
マンガ分量にして8ページ程度の短いものを想定
自分の作画技術が著しく低いことを念頭にあまり絵の力に頼ったものにはしない
想定読者は自分自身が想像しやすい青年誌を読むような人
〈ストーリーと場面割り〉
・場面①
物語の導入として描きたいものの主旨である距離は近いけれど全く何も知らない他人という存在を説明。
具体的には人口密度の高い東京という街が舞台であることを示し、朝の通勤列車など同じ街に住むが何もしらない人間達が通勤列車に詰め込まれる情景を描く。ぎゅうぎゅうに身体は詰め込まれる一方で人間としては限りなく遠い存在たち。物語はそうした東京で主人公が出会った奇妙な人間を語るものだと示す。
主人公はあくまで読者の目線、窓であり、過度な情報は示さない。
とある人間の日記がネットオークションにかけられているのを見つけ購入。
おもむろに読み始める。
・場面②
主人公に日記を読まれる人間の視点。
彼は40歳前後の男性。
事故で妻と娘を失ったばかり。
元々さしたる趣味もなく、仕事もやりがいを感じているわけでもなく家族との生活を維持するために義務的にこなしていた。週末家族で小旅行するのが唯一の生きがいのようだった。そんな中拠り所だった家族を失い、もはや働く意味すらなくなって時間を持て余すようになった。いっそ自殺しようかとも思うがそれもできず、惰性のように通っていた最寄り駅の改札口まで来てしまう。
そこで道行く見知らぬひとたちが眼に入ってくる。
今までは輪郭のなかった他人をまじまじ見ていると、当たり前だが、それぞれ違った人間だと気付く。彼・彼女らは一体なんのために生きているのか。ふとそう思い立った日記の男は毎日適当に見定めた人間を尾行するようになる。
場面③
尾行エピソードを2人ほど描く。
高校生くらいの学生と自分と同じ背格好の中年男性。
学校、会社に通う2人の平凡な時間。
それでも下校時に友人と談笑する学生とお昼時に店の吟味に熱中する中年男性の姿をみて自分がそこからこぼれ落ちていることを自覚する。
最後に3人目の男が出てくる。
場面④
3人目の男〈眼鏡の男〉はほかの人間とは違った。何処か親近感が湧く。
理由はわからないがその違いにひかれて男は尾行を始める。
満員電車をジッと眺めている眼鏡の男。彼に注目しているとその奇異さに気が付くが、誰も彼を気にする人はいない。通勤ラッシュが終わり徐々に空いてくる車内。立つ人がまばらになった車内。眼鏡の男がようやく乗り込む。男も隣の入り口から同じ車両に乗る。
男は電車の中央に立つと静かに鞄に手を入れる。
次の瞬間男の手には大柄なナイフが握られていた。
ぎょっとする男。男以外車内はまだその事態に気が付いていない。
眼鏡の男は周囲を見回すと、ナイフを鞄にしまった。
暗転〈ここからは主人公の空想〉
次の日。
同じ時間。やはり眼鏡の男が満員電車を見送っている。昨日と同じ鞄。
リプレイのように通勤ラッシュ後の電車に眼鏡の男は乗り込んだ。
昨日とは違い、乗り込む瞬間、もう眼鏡の男の手にはナイフが握られていた。
それに気付いた男の顔は笑みが浮んでいる。
暗転。
最後、主人公の視点に戻る。日記は既に読み終わっている。
かわりに机の上のPC画面にはあるネットニュースが映し出されている。
~線刺殺事件 白昼の電車内で無差別襲撃 会社員男性が身を挺して犠牲に
〈物語の背景情報〉
主人公はあくまで狂言回しの役回り。
日記の男は都内某区役所に勤めている。家族の事故後有給休暇をあてて休んでいたがそれも使い果たした。現在は精神疾患の診断書を出した上で休職扱いされている。
妻と娘が亡くなった事故は雨で視界の悪い路上における妻の自損事故。恨むことができる相手はいない。
眼鏡の男は両親もすでに病死し、さしたる家族のいない30代男性。痴漢冤罪事件に巻き込まれたことで最近失業し、再就職もままならない状態。冤罪事件の当事者を恨み、付け狙っていたが相手に勘づかれ行方知れずになってしまった。今も足跡のわからなくなった相手を探しているが、もうそんな日々に嫌気がさしている。
最後のネットニュースの記事。
被害者が家族を失った休職中の男性であることも報じられてはいるが、彼のそうした側面は誰の記憶にも残らない。当然、生前彼がしていたことも知るのは日記を読んだ主人公だけ。
日記という形態で描かれるため、決定的な日の描写は当然日記には残されていない。暗転の間は主人公によるあくまで想像となっている。
ただ、日記の男が眼鏡の男のしようとしていることに気が付いていたことと、ニュースの間の空白が主人公の想像で埋められている。
ここが日記で描かれた世界でないと表現する必要がある。
以上が今回1~2の段階として作成したものです。
いわば内なるマンガ原作者となり、今後作画等のフェーズを仕立てる内なる存在へと投げかける想定でつくりました。
したがって、マンガ原作のテキストという前提で、もっとおさえるべきところを選評いただく先生にお聞きしたいです。
実際の場合、おそらく作画担当の方の表現について原作者はある程度認識し、それを踏まえて原作をつくるのではと思います。また、創作の過程では幾度となくコミュニケーションのキャッチボールがなされるはずです。
ひとりの人間でも、前者は自己認識という形でできるように思いますが、後者はなかなか難しいわけで、ひとりで行う前提で作成した今回のテキストはマンガ原作のそれと完全には一致しないとは思います。
そうした限界点はありますが、今後前述の3以降のフェーズ(コマ割り以降)に進む上での不足点という形で、ぜひ御意見を伺いたいです。
相変わらずテキスト主体のマンガになっていない投稿となり申し訳ありません。何卒よろしくお願い致します。