【WS】平尾アウリ短編集「女子には歴史がありまして」『内緒シェアリング』の感想
平尾アウリ短編集「女子には歴史がありまして」に収録されている『内緒シェアリング』についての感想。作品のジャンルは、百合ものギャグマンガ。ページ数は8ページ。
秘密を共有できたと思っていたのは主人公だけだったというお話。
冒頭のシーン、主人公の馬場さんが魔法少女であることがクラスメイトの直井(なおい)さんにバレるという予想外の展開からスタートする。馬場さんは2人だけの秘密ができてしまったと思い、いつ秘密がバラされるかと直井さんをまるでストーカーのように監視するが、直井さんは一向にバラす気配はない。
2ページ2コマ目のおはぎをあげるというちょっとしたやりとりや、4ページ1~4コマ目のストーカー気味の行動などがギャグのテンポで描かれ、直井さんの馬場さんに対する興味のなさが際立っている。興味を持たれないことを悔しく思った馬場さんは、興味を持てないなら代わりに直井さんの秘密というより弱味を教えてほしいとねだる。
ここで直井さんは実は担任の女性教師と肉体関係を持っていると打ち明けるが、想定の斜め上をいく秘密に主人公の馬場さんは秘密が大きすぎるとおののく。
しかし、よく考えみてると5ページの2コマ目「秘密がバレたら一生偏見の目で見られちゃうことうけあいなんだからね!?」とのセリフにあるように、主人公が魔法少女であることも、とても大きな秘密である。
現実ではあり得なさそうな魔法少女という秘密と直井さんのリアルにあり得るかもしれない秘密が等価として扱われることによって、ここで「内緒シェアリング」が完成したように見える。
短編集「女子には歴史がありまして」の中でこの作品に一番心惹かれた点が、非現実的な秘密と現実的な秘密を等価に扱うというアイデア。
魔法少女であるという秘密に釣り合うものは何かと様々な軸で考えることができるが、バレたら偏見の目で見られるという点で釣り合うものを考えると、担任の女性教師と肉体関係を持っているという秘密はちょうど釣り合っているように錯覚する。
もちろん、それぞれ抱えている秘密の客観的な軽重をはかることは難しいからこそ、どの点で等価として扱うかはその関係性によって決定する。関係性が無ければ秘密の共有も無いわけで、それを逆転させ秘密を共有して関係性を築くというのは女子にとってのあるあるネタの一つ、人間関係を円滑にすすめる一種の知恵とも言えるだろう。
この内緒シェアリングによって、主人公の馬場さんとクラスメイトの直井さんの間に新たに関係性が結ばれたと馬場さんは思っていたはずである。
その後、主人公は実際に直井さんと担任の逢引きの場面を目撃してしまう。さらに、運悪く、そこへ校長が通りかかる。
直井さんの秘密を守ろうとした主人公は魔法少女の変身により校長の目を引き、さらには魔法によって犬を出現させて逢引き中のふたりの注意も引こうとするが、直井さんと担任はイチャイチャとしたふたりだけの世界に入ってしまっているため、直井さん単独のときと同様に主人公が魔法少女であることなどは気にもとめない。
結局2人だけの秘密、内緒シェアリングの関係があると思っていたのは主人公だけで、直井さんは徹頭徹尾、主人公のことに興味が無かったことが分かる。しかし、直井さんと担任の間には確かに愛があり、主人公の思惑と関係なく「愛は地球を救う」という最終コマでこの話は幕を閉じる。
この落差がギャグマンガのオチとして、読者を驚かせるものになっている。