【WS】安田佳澄『フールナイト』1話~3話を読んで
【はじめに】
今回漫画の感想を書くという課題にあたり、何の先入観も入れたくなかったので、
今日まで全く読んだことのない漫画として安田佳澄さんの『フールナイト』を取り上げました。
結論としては
・直感的に感じられる絶望の世界の絵作り
・どこにも行けない主人公へのキケンな共感
・世界を覆す大きな謎による継続動機
と大変満足感の高い作品でした。
詳細をお話していきます。
【あらすじ】
ぶ厚い雲に覆われ陽が差さなくなった遥か未来の地球。
植物が枯れ酸素も薄くなった世界を生き延びようと、
人類は「死期の近い人間を植物に変える技術」を開発し、わずかな酸素を作り出して生き延びていた。
種を植えられた人間は、永遠に植物の苗床になるが1000万円という大金を手に入れられる。
先の見えない世界でも人として生きるか、苦しみを捨て植物として新たな生へ踏み出すか。
人々は選択を迫られる──
【ポイント1:直感的に感じられる絶望の世界の絵作り】
まず第1話をめくってすぐ、カラーの見開きがあります。
そこに描かれているのは…植物に体を蝕まれ、骨肉が露わになった元・人間たちの山。
ゾッとするビジュアルにも関わらず、その手前を世間話をしながら
幼い頃の主人公2人(トーシローとヨミコ)が通ります。
いかに私達の常識と外れた現状が「当たり前」として世界に受け入れられてきたか、
一発で分かる素晴らしい見開き絵です。
更に植物化した人間が喋る!
意味不明な言葉も相まって、世界観のグロテスクさがひしひしと伝わってきます。
【ポイント2:どこにも行けない主人公へのキケンな共感】
そんな中、成長したトーシローは、ちょっとしたミスが元で
上司から今月の給料の支払いを止められてしまいます。
今日食べるご飯のお金すら無い貧困。
薬が切れると狂暴化する母親。
土下座をしても薬をくれない医師。
こんなに苦しいなら、もう植物化して1000万円もらった方が
幸せなのではないか?
読者の誰もがトーシローの思考に共感できる説得力が
この漫画にはあります。
辛い状況が何度も何度も重ねられ、
そのたび描かれるトーシローの苦悶の表情、形が大きく歪んだ吹き出しの形に、
どんどん私達の心までぐちゃぐちゃと掻き乱されていきます。
【ポイント3:世界を覆す大きな謎による継続動機】
そして…トーシローは必死に支えていたはずの母親に刺された事をきっかけに、
ついに植物化の手術を受けてしまいます。
2年経てば人間的な活動は出来なくなる…そんなタイムリミットが迫る中、
トーシローに変化が生まれます。
植物化した人間”霊花”の言葉が分かる。
その言葉を通じて人の感情が読める。
この小さなきっかけを元に、トーシローはしきりに
「南極」という単語を耳にするようになる。
南極に一体誰が、何が待ち受けているのか。
この絶望の世界を終わらせ、トーシローが真に救われる未来があるのか。
今回はお試しの3話までを読みましたが、続きが読みたくなる物語の伏線が
しっかりと貼られていた作品でした。
【まとめ】
絵から伝わる絶望の世界、主人公の動機への強い共感、購読を継続させる引きのある物語。
全ての要素が詰まっていると言っても過言ではない素晴らしい作品でした!
現在既刊6巻。ビッグコミックスペリオールで連載中とのことで、
引き続き追っていきたいと思います。
【リンク】
ビッグコミックスペリオール
安田佳澄『フールナイト』
https://bigcomicbros.net/work/36817/