
好きなマンガ『めしばな刑事タチバナ』第27巻~大江戸すぺしゃる~
はじめまして!第8期ひらめき制作コース受講生の長谷川 右岸です。
運営の方からブログ投稿のお声がけをいただきましたので「好きなマンガ一冊のタイトルおよびその巻数」について書かせていただきます。
私が紹介するマンガは『めしばな刑事タチバナ』27巻~大江戸すぺしゃる~です。ちょっと長くなりますが、語らせてください。
『めしばな刑事タチバナ』は、めしの話=めしばなを得意とする刑事、立花が主人公のギャグマンガです。取り調べ室や聞き込み中など様々な場面で、主人公や周囲の人々が(実は主人公以外もけっこう語ります)語る「めしばな」が物語の中心となっています。
私がこの作品で好きなところは、まず「めしばな」の内容が詳細であるところです。この「めしばな」はだいたいB級・C級グルメのうんちくだと思ってもらえれば良いのですが、とにかく取材が緻密で内容が詳細なのです。
そして、そんな詳細な「めしばな」を語りながらも「ギャグマンガのキャラが話す真偽不明なうんちく」という体をとることによって、ときにビデンスをある程度無視した、大胆な仮説を唱えてしまうところもまた、本作の魅力です。
「(1980年の吉野家の会社更生法申請について)第一次牛丼戦争の「客」をやっていた俺たちにいわせてもらえば理由の一つは ~略~ 養老牛丼が安くてうまかったから……と思えたね」(第2巻 第24ばな「牛丼サミット再びその4」より)
「支持層の属性ははっきり分かれています。ペヤングは「原理主義」、U,F.O.は「ノンポリ」、そして一平は……「中毒」です」(第3巻 第36ばな「カップ焼きそば選手権 その3」より)
上記は比較的連載初期のセリフですが、雰囲気を感じてもらえると思います。
そして、私が『めしばな刑事タチバナ』に感じているもう一つの大きな魅力が「自由さ」です。
飽くまで「めしばな」がメインコンテンツであり、場面設定やストーリーは「めしばな」を語るためのお膳立であるという作品の構造ゆえか、もしくはマンガ誌ではなく『週刊アサヒ芸能』という芸能誌に連載していることと関係しているのか、この作品では突然、いろいろなお約束を無視した実験的な回が掲載されることがあるのです。
例えば、作中の世界観が突然ゾンビ映画のようになり、壊滅した研究所から発見されたビデオレターに科学者に扮した主人公が登場し、「ナポリタンウィルス」の感染拡大を語るという体で、日本におけるナポリタンの普及の歴史を語る回(第13巻 第151ばな「ナポリタン再び」)や、突然主人公がアメリカのTVショーのようなスタンダップコメディアンとして登場し、舞台上で聴衆に向けて100円台のレトルトカレーについて話し続ける回(第18巻 第208ばな「レトルトカレー」)などです。
ちなみに、基本こういった回の最後は夢オチです。
そのほかにも、ずっとセリフなしで絵のみでキャラクターの一日を描いた回(最後にひとことだけセリフを喋る)や、夜の港に張り込みをしているという設定で話全体の半分以上のコマが黒ベタにフキダシのみの回など表現手法が実験的な回もあります。
こういった実験回の評判は読者によって賛否両論あるようですが、私はこの作品のこういった遊び心がたまらなく好きなのです。
さて、いよいよ冒頭で紹介したコミックス27巻についてです。この27巻こそ、私の好きなこの作品の遊び心が爆発(暴発?)した伝説の巻なのです。
この27巻はその副題や表紙からもわかる通り、コミックス一冊まるまる、物語の舞台が江戸時代となっているのです。
『めしばな刑事タチバナ』において、江戸時代を舞台とした話はそれまでに何度か掲載されており、夢オチで終わる異色回のなかでも割とお馴染みの設定ではありました。しかし、それがまさかのコミックス一冊分。主人公たちが江戸時代にタイムスリップ、とかでもなく、スターシステム的に主人公たちが扮する、飽くまで本編キャラとは別人の江戸時代キャラ主体の話が一巻まるまる。出版されたときは本当に驚きました。
さらに驚くのは、この“大江戸すぺしゃる”が描きおろしの特別編などではなく、連載をまとめた通常巻として出ていることです。目次を確認すると掲載されているのは12話。『週刊アサヒ芸能』の平成29年5月18日号~8月3日号掲載と記されています。つまりこの時期の『めしばな刑事タチバナ』は約2か月半のあいだずっと、本編に関係ない江戸時代の話をしていたということになります。そんなことしてええのんか。
よくないのかもしれません。この巻については読者の中でも特に賛否両論分かれています。Amazonの評価の☆の平均を見ると、ほかの巻はすべて☆4.5~☆5の間なのに対し、この巻だけは☆4となっており、低評価が他の巻より少し目立ちます。レビューを見るとこの巻だけは流石に許せないという人も一定数おり、その気持ちもまた理解できます。あまりにも自由すぎる。
しかし、本作品の「自由さ」に惚れていた私は、普通の漫画週刊誌連載ではまず難しいであろう大冒険を目の当たりにして、つい「やるじゃないの!」と思ってしまったのです。
『めしばな刑事タチバナ』は現在56巻を数え、まだ連載が継続しています。27巻以降、一冊まるまるスピンオフといった冒険はさすがに一度もありませんが、一話単発の実験回は健在です。また、連載15年目ともなると初期に勢いのあるチェーン店として取り上げた店が連載中に衰退してしまうといったこともあり、その話題に作中で自己言及するなど、長期連載ゆえの新しい面白みも生まれています。
と、いうわけで今後も『めしばな刑事タチバナ』から目が離せません!
以上、長くなりましたが私の好きなマンガについて語らせていただきました。一年間よろしくお願いいたします。