
好きな漫画
最近一番時間をかけて読んでいる漫画、千葉ミドリの『緑の予感たち』について書きます。『このマンガがすごい!2026』などで紹介されているようなので、すでに知っている方も多いかもしれません。
これは短編集と言っていいと思うんですが、各エピソードはよくある「日常とファンタジーが混ざり合った世界観」が描かれています。そしてこういう物語の例に漏れず正直なところ「どゆこと……?」と困惑する部分もあります。それでも、なぜか惹きつけられる面白さがあります。
好きなポイントはいくつかありますが、その一つは「闇」の表現です。一口に闇と言っても、作中では多様な質感で描き分けられています。 また、その闇を際立たせる効果を狙ってのことでしょうか、白くてあえて描き込まれていないページも多く配置されています。そうしたページにおける登場人物の描かれ方は、僕が高校生の頃に読んでいた和田ラジヲの『和田ラジヲのここにいます』を思い起こさせるような、少しコミカルなタッチです。こうしたコミカルな絵と、ちょっとホラーテイストな絵がひとつの作品の中で混ざり合っている点も、とても好ましく感じます。
もう一つの僕の好きなポイントは、細部のディテールです。 例えば、カッパが理髪店を営んでいるエピソードがあります。作中に描かれているカッパの手(あるいは前足と言うべきでしょうか)には、水かきがありません。このカッパはハサミやクシを使って客の髪を切るのですが、道具を使うために水かきが退化したのでしょうか。 もちろんカッパは架空の存在であり、何が「正しいカッパの姿」なのかは分かりません。ですから、ほとんど人間の手が描かれていても問題はないはずです。しかし、それは人間の手には見えません。少し不気味で、爪が長く、形も怖いです。現代人の衛生感覚からすれば敬遠されそうなほどで、僕が客だったら怪我をさせてしまうのではないかと不安を抱いてしまうかもしれない。にもかかわらず、登場人物たちはそのことに一切触れません。
この「カッパの手」に代表されるような、細かな違和感の積み重ね(ディテールの束)こそが、この物語の日常とファンタジーが混ざり合う独特の空気感を作っているのではないか、と思います。
こうした「夢と現実が入り混じるような作品」というと、どうしてもつげ義春の作品に代表されるような、どこか病的な世界観を連想しがちです。しかし、この漫画から受ける印象はそれとは少し違いました。夢のような曖昧さはありながらも、全体としてどこか健康的で、比較的読後感も明るいです。ちょっとした悩みや日常の煩わしさが、ふっと軽くなるようなエピソードが丁寧に描かれている。その空気感も、本作の大きな魅力なのだろうと思います。
僕は最近、漫画を描こうと思っています。そのため、いくつかの短編集を買って読んでいます。その中で、結果として一番長い時間をかけ、何度も読み返しているのがこの漫画です。

