
【第8期】さやわか先生&大井昌和先生による質疑応答のコーナーNo.4
ひらめき☆マンガ教室では受講生の学びを深めるために受講生専用の質問フォームを設けております。本コーナーでは「ひらめき☆マンガ+で公開可能」なものとしてフォームに投稿いただいた質問の一部を、皆さまにお届けいたします!
今回は《企画の作り方》についての質問と回答をお伝えします。
質問者:彩冬八羊さん
<質問内容>
さやわか先生へ。制作コースの彩冬八羊です。
先日の第一課題の講評会ではありがとうございました。飲み会の席でも生徒一人一人にとても丁寧に講評しているさやわか先生を見て、これから一年、必死に食らいついて行こうと思いました。至らない点やなかなか理解が追いつかない点なども多いと思いますが、できる限り真摯に取り組んでいく所存ですので、一年間どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、飲み会の席で先生が仰っていた「企画の立て方」について、「AがBをしてCになる」という企画ノックに1週間向き合ってみました。毎日始業前に30分時間を設けて時間内で考えてみる、という方法を取っています。企画とは一体なんぞや?というところからのスタートのため、考え方が間違っている箇所も多いとは思いますが、そこも含めてご指摘いただけましたら幸いです。
①まずは好きな作品の「AがBをしてCになる」を考えてみました。
・児童相談所に勤める正義感の強い男が、連続殺人犯の死刑囚の女と獄中結婚して、夫婦になる話(夏目アラタの結婚)
・空腹が原因でドラゴンに負けたパーティーが、ダンジョン内のモンスターを調理して食べながらダンジョンを進み、ドラゴンに食べられた妹を助けにいく(ダンジョン飯)
・何をやっても中途半端になるヤンキーが、不器用ながらに自分の生き方を模索している転校生に出会い、徐々に出来なかったことができるようになる(君と宇宙を歩くために)
⭐︎気付いた点
・一つの作品の中でも誰をAに置くかで企画の印象が変わる
・語彙が足りなくて作品の要所を端的に表現する言葉がわからない
②イマイチよくわからないので、まずは実体験を持って考えたました。
・高校からサックスを始めた女子高生が、ビックジャズバンド部に入って、ソロを勝ち取る
・不器用で何をしてもうまく行かない新卒が、会社に入って、徐々に社会性を身につけた人間になる
・自分のことをうまく表現できない女性が、言語が通じない場所に留学し、徐々に自分を表現する言語を習得する
・メキシコに旅行に来た日本人が、現地の少女と出会い教育を授けるために、メキシコのトンネルを抜けアメリカを目指す
③さやわか先生が、「BをするのにAがどんな人だったら面白いか?」と仰っていたので、
それを元に考えてみました。
・宗教から逃れた宗教2世が、恋をするが実はその人は新興宗教の教祖で、一緒に宗教を運営する
・物静かな言語学者の女性が、ヒップホップにハマりフリースタイルでラッパー達を無双して、川崎を制覇する
・好きな人には緊張で勃起しない攻が、好きな人としかエッチできない受との恋愛をして、童貞を捨てる
・女性という理由で寿司屋を継げない下町の寿司職人の娘が、アメリカで寿司屋を開いて、江戸前寿司の職人になる
④さやわか先生が動画内で「CからAが一番遠い」と良いと仰っていたので、それを元に考えてみました。
・耳が聞こえない女性が、スピーカーから出る振動で音楽を体感し、クラブにハマる
・クラスで一番足が遅い女子が、運動会を徹底的に研究して、障害物競走で一位になる
・手先が器用なヤンキーが、好きな女子のために、編み物にハマる
【疑問】
・Cに入るのは社会的成功の方がわかりやすいのか?感情的変化が入っても良いのか?
・読切サイズだったらCは物語の感情が一番動く場面なのか?あるいはオチなのか?
・上記の企画の考え方はそもそも合っているのか?
500字以内ということでしたので、かなり企画を厳選したのですが、それでも長文になってしまい大変申し訳ありません。今後も日々筋トレ的に企画を立てる練習をしていきたいのですが、どのようにお見せするのが一番先生のご負担が少ないでしょうか?企画の立て方、並びに先生へのご提出の仕方をご教授いただけましたら幸いです。お忙しいところ大変恐縮ですが、一言でもご返信いただけましたらそれを元にまた企画について考えてみます。何卒よろしくお願い申し上げます。
彩冬八羊
<さやわか先生からのご回答>
彩冬八羊さん、ご質問をありがとうございます!「企画の立て方」について、実際にやってみたとのこと、熱意があって素晴らしいと思います!
さて①から④まで拝見しまして、まず「疑問」として最後に書かれていた「企画の考え方はそもそも合っているのか?」という件ですが、これは考え方として、正しい方向性である、すなわち「合っている」と言い得るかな、と感じました!
ただ、それだけに次のステップとして、その精度をもっと上げていくのがいいんじゃないかと思いました。そこでひとつ、講義当日も申し上げた大事なことを今一度書かせていただくと、まずこの「AがBしてCになる」というのは「そのマンガの面白さを端的に表す文章」であるべき、ということです。そして要は、企画というのは「そのマンガのどこが面白いのかをズバッと言うやつ」だということです。
気になったのは「語彙が足りなくて作品の要所を端的に表現する言葉がわからない」と書かれていたことです。もちろん要所を語るのは必須だと思いますが、それが「作品の概要説明」ではなく、「何が面白いのか言う」という目的意識で行えると、ますますいいのではないかな、と思いました。彩冬八羊さんに、その意識がないとは思いませんが、その目的意識を強く明確にしておくと、もしかしたら言葉もうまく出てくるかもな、と思ったので、このように書かせていただきました。いかがでしょうか。
さて、それも踏まえつつ、「疑問」として挙げられていたほか2点についても、書かせていただきます。まず、「Cに入るのは社会的成功の方がわかりやすいのか?感情的変化が入っても良いのか?」についてです。
これについては、「主人公の感情的変化はCの構成要素として絶対に必要である。しかし、どちらかというとC自体は社会的成功として考えほうがいい」という言い方になるかなと思いました。
どういうことか、以下にご説明します。まず、そもそもマンガを読む時、読者はキャラを見ます。とりわけ、その「変化」を見ようとします。したがって、感情的変化が入らないマンガは、なかなか面白いと思えません。
しかし、だからと言って、主人公の感情的変化のみをCすなわち作品としてのゴールにしてもいいということにすると、結局、読者に見せるクライマックスシーンが地味になってしまう可能性があります。話が抽象的になったり、尻すぼみになったりする可能性も高まります。
なので、企画としては、主人公の「感情的変化」を必要としながら、それを経て起こる「出来事」をベースにして書いた方がいいと思うわけです。
しかし起きる出来事は、必ずしも「社会的成功」でなくても、いいんじゃないかとは思いました。おっしゃるように、そっちのほうが「わかりやすい」のはたしかです。多くの読者にも支持されるでしょう。しかし、プロット的には、たとえば物語の最後で単に友達と仲直りするとかでもいいし、周囲の反対を押し切って超高層ビルを登り切る、とかだって、ありえますよね。それらを「社会的成功」と呼ぶのは、ちょっと躊躇われます。だから「社会的成功」のほうがわかりやすいし、メジャー感もあるにせよ、少なくとも理論上は、それだけを書くべきだとは申し上げにくいところがあります。
ともあれ、企画は、最終的には作品になるものなので、主人公の「感情の変化」を経て「起こる出来事」ベースで書いた方がいい、という、先ほどの結論にしておくのがいいんじゃないかな、と思います。
したがいまして「疑問」としてもうひとつ書かれていた「読切サイズだったらCは物語の感情が一番動く場面なのか?あるいはオチなのか?」についてですが、これは、「オチ」と呼んでもいいですが、用語としてはやや曖昧なので、「物語の感情が一番動いた結果、起こる出来事」という言い方にしておくのが個人的には適当かなと思います。
水城せとな『俎上の鯉は二度跳ねる』で考えてみましょう。この単行本は、各話が一応、独立した読み切りとしても読めるように作ってあります。そういう作り方は定番のパターンですが、特に第1話にあたるエピソードは、完全に読み切りとして読める場合が多いです。なので、読み切りサイズでどこがCにあたるのか考えやすいはずです。
ということでこの単行本の第1話を読むと、まず流されがちであるがゆえに女性とセックスしないようになっていたことも「たまたま縁がなかった」程度に思い込もうとしていた恭一が(=Aが)、流されるのではなく責任ある行動をしようとして今ヶ瀬のことを自ら誘い(=Bして)、今ヶ瀬のことをもっと積極的に考えようとし(=これが感情的変化)、自分からキスを求める(=起こる出来事)。そうされて、「今ヶ瀬が幸せで崩れ落ちる」というリアクションもCの一部として考えてもいいかもしれませんが、いずれにせよこの話で読者を引き込むのは、このABCだと言えます。ついでにいえば最終ページの「たまきにそっけなくする恭一と、それを見ていつもよりカッコいいと思うたまき」は話をクローズするためのエピローグ的エピソード、言い方によっては「オチ」に相当する部分、ということになるんじゃないでしょうか。
そんな感じで、ざっとですが具体的な作品に即して書いてみました。ちょっと駆け足でやったので、ズバッとした言葉にはできませんでしたが、基本的な考え方はこういう感じになります。いかがでしょうか。最後に、「どのようにお見せするのが一番先生のご負担が少ないでしょうか?」とのことですが、どういうやり方でもかまいませんよ!まとめて見せていただいてもかまいませんし、講義のときにざっと見るのでもいいです。企画を見ること自体はそんなに時間はかかりませんのでいくらでも大丈夫ですが、そのぶん、実は言えることも少ないです。基本的には「いい」「悪い」でしかないので……。ただ、企画の立て方のワークショップも控えていますので、その内容もぜひお楽しみに、ということではあるかなと思います!よかったら、参考にしてみてください。
以上です!
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おわり