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好きなマンガ1冊:『明日また電話するよ』


はじめまして。第8期聴講コースの十一です。本日は、わたしの好きなマンガを紹介します。選ぶのがとても難しかったです。マンガ作品にたくさん触れてきたわけでもないですし、結構移り気で、時期によって好きな作品が変わってしまうのですが、振り返ると、このマンガが一番好きなんじゃないかな、と思います。

『明日また電話するよ』 
著者:山本直樹、イースト・プレス、2008年

山本直樹さんがセレクトした短編を集めた作品集(※成人向けマンガ)です。収録作品について、どの作品もいいなあと思いますが、特に好きなのが、表題作の『明日また電話するよ』です。遠距離恋愛中のある若いカップル、ミコとマコの性愛と、新しい生活を目の前に自分たちの関係を見つめ直す過渡期を描いた作品です。

性描写のある作品が、実は苦手なんです。でも、山本直樹さんの作品は読むことができてしまいます。同じようなことが他にもありまして、暴力描写が苦手なのに、北野武監督の映画『ソナチネ』が好きだったりします。好きなものが苦手なものを内包しているので、気軽に触れることができないのがもどかしいのですが、山本さんの作品の場合、エロや暴力が描かれることでうまれる、からっぽで寂しい感傷的な雰囲気が好きなのかもしれません。よって、この作品についても、そういう寂しさみたいなものを、わたしは好ましく思っているような気がします。

東京で就職することが決まり、住む家を探しにやってきたミコは、マコと一緒に賃貸物件を見てまわります。はじめは恋人のマコに「一緒に住むの、いや?」ときいていたミコですが、その後、逆にマコから「一緒に住もうか」と言われても、明確な返事をせず、はぐらかしてしまうシーンがあります。新しい生活をイメージする際、生まれ育った家族との暮らしを、意識的にも、無意識的にも、参照してしまうことがあるように思いますが、恋人との関係が「生活」に耐えうるものなのか、ミコは疑問に思い始めているようにも見えます。いつかは自分の両親のように、倦怠期の夫婦になるかもしれないと、そんなこともつぶやきます。マコは大丈夫だと答えますが、二人の関係はすでにズレはじめている。激しい性愛とこの冷静なやりとりとのギャップが印象的です。作品のラストシーン、ミコが「明日また電話するよ」というセリフをいうのですが、このふたりはもうダメなのかもしれないな、というかんじもしてしまいます。このラストシーンのために、何度も読んでしまうし、何度読んでも「最高だった・・・」と思います。

わたしは、今回、ここで山本直樹さんの作品をあげましたが、白状しますと、他には『ビリーバーズ』しか読んでおらず、いまは『レッド』を読んでいる最中の、にわか読者であります。この1年で山本さんの他の作品にも触れて、いろんなマンガを読んで、この作品の好きなところについても、もっと書けるようになりたいなあと思っています。

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