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【WS】「体温の形」ひむかさん/「1/720の初恋」藤原ハルさん/「2人の孤独」七井一汐(なないつ)さん/「お狐サマが解釈ちがい」藍銅ツバメさん/「お兄ちゃん、ごめんね。」ぼんち。さん 感想文


「体温の形」ひむかさん

子どもから大人になる手前、傷つきやすくて不格好で、それでいて尊い感情を思い起こさせる。タイトルの「体温の形」のイメージ通り、全体に微熱のような体温が流れていて、時に温度が振り切れるのも愛おしい。

主人公の芦田は、絵に自信がない美術部員だ。容姿端麗・文武両道の部長から、「見ることとはすなわち知ること」と語られ、デッサンの個人指導を受けることになる。ところが当日の指導は、思ってもみなかった内容だった。最初は戸惑っていた芦田だが、いざデッサンを始めると、すべてを見つくし、知りつくすような迫力でクロッキーを動かしていく――

真面目でおとなしく、自己評価は低めの芦田と、一見完璧で人当たりが良いが、突如大胆な行動に出る部長の対比が効いている。部長との距離が縮まり、芦田の当惑が熱に変わる瞬間が鮮烈だ。マックスまで高まった情熱が切なさとフェティシズムに収束し、冒頭が回収されるラストは抒情的ですらある。

「1/720の初恋」藤原ハルさん

奇妙で強烈な作品である。粘菌を愛してやまない主人公が通う田舎の学校に、東京から転校生がやってきた。転校生のヨシダエリは都会的でかわいらしく、たちまちクラスの人気者になる。当初はヨシダエリに興味を持たなかった主人公だが、ある奇妙な出来事によって、彼女に恋心を抱くようになってしまう。

ヒロインのヨシダエリは魅力的だが、それは見た目が良いばかりではなく、芯の通った強さに加え、主人公の嗜好をくすぐる不思議な個性があるからだ。型にはまらないヒロインと、彼女の引力に囚われて生を実感する主人公がたまらなく良い。ヨシダエリと主人公は、今後、はたから見ると不穏な関係性を結ぶのかもしれないが、そんな二人の後日譚も読んでみたいと思った。

「2人の孤独」七井一汐(なないつ)さん

恐らく現代に近い日本。顔にアザができる謎の病気・アザ症が発生し、アザ症患者に触れた男性は死んでしまう。アザ症の主人公は、ある時、珍しい男性のアザ症患者と知り合った。二人は同種の忌まわしい記憶を持っており、それがアザ症の原因なのだと推測する。そんな中、非罹患者からの差別を受け――

物語の背景は緩慢なディストピア。社会は分断され、アザ症の人々は、防護服を着用して外出せざるを得ない。人間は孤独であるはずだが、キャラクターの淡泊な表情や落ち着いた会話が悲壮感をやわらげている。シンプルで細い線は、SF的な要素と相性が良く、非日常がもはや日常となってしまった状況にリアリティを与える。二人で未来への一歩を踏み出すラストは、こうした設定には珍しく清涼感があった。

「お狐サマが解釈ちがい」藍銅ツバメさん

全体に淡々としたユーモアが漂う作品で、主人公の少女と神社のお狐サマの会話で展開する。公園で迷った主人公は、小さな神社に行き当たる。荒れ果てた神社の主は、「信仰不足で力を失い幼い見た目に」なった女児のお狐様で、主人公は頼まれごとをされそうになるが、話は思わぬ方向に向かっていく。

困り顔のポーカーフェイスとマイペースを決して崩さない主人公と、獣の耳と尻尾、長い白髪を持つ女児であるお狐サマ。二人のキャラクター造形も魅力的だが、特筆すべきは掛け合いの面白さだろう。ボケとツッコミをきっちり踏襲しつつ、二人の間に時折生まれる間が、シンプルなタッチの絵柄と相まって、なんともいえない味わいを生んでいる。終盤近くの静かな情景も印象的で、ラストで元のペースを取り戻してしまう二人の会話と共に、深く記憶に残った。

「お兄ちゃん、ごめんね。」ぼんち。さん

見ず知らずのおばあちゃんを気遣う優しい主人公と、なんでも許してくれる兄。明るい日常を切り取ったいい話かと思いきや、かなり早い段階で想定を裏切られる。
兄はもともと家庭内暴力を振るっており、母と主人公は被害者だった。ある出来事により家族の仲は良くなるが、それはかりそめの平和に過ぎなかった。不穏な空気を漂わせたまま、物語は暴走するように収束する。

主人公の振舞いや表情は、家の外では明るく好印象だが、家庭の内側だと暗く重苦しく、コントラストが鮮やかだ。女の子のかわいらしさや情緒の豊かさ、絵柄のほのぼのとした雰囲気が、ストーリーとのギャップを生んで効果的である。人物の感情はいびつだが、どこか読み手の薄暗い気持ちに引っかかる歪みで、この作家の別の作品を読みたくなった。

※文字数制限より、絞らせていただきましたが、面白い作品ばかりでした。講座の皆様、素晴らしい作品をありがとうございます。

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