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【WS】ヤマシタトモコ『違国日記』11巻(最終巻)感想


『違国日記』が完結した。
2017年から『FEEL YOUNG』(祥伝社)で連載されたこの作品は、2023年8月8日に最終巻である11巻が発売された。

https://www.shodensha.co.jp/ikokunikki/

(祥伝社『違国日記』特設サイト)

 

まず、表紙がいい。
こちらに目線を向けてはにかむように笑う朝。明るい色合いで目がキラキラしていて、とてもいい表情をしている。

 

内容もとてもよかった。

嫌っていて疎遠だった姉が事故死して、その娘である中学3年生の朝を引き取った小説家の槙生。人見知りで孤独を愛する槙生と孤独でさみしいと口にする人見知りしない朝。20歳差のふたりはぶつかったり話し合ったりしながら一緒に生活してきた。

中3だった朝は11巻では高3になり、槙生は朝のことを大切に思うようになっていた。自分の心の変化に戸惑いながら、槙生は朝のためにできる限りのことをやってあげたいと生命保険について調べて検討するが、それは朝にとっては槙生の死を想像させることで、想像するだけでも耐えられない苦痛を感じることだった。

 

“頭で
わかってても
 

 

わかってても
むりだよ

 

あたしは
こわいし
さみしい

 

それがわかんないのは
ちがう人間だからなの?”
(※1)

 

朝の言葉にはっとした槙生は俯きながら言う。

 

“……あ

 

わたしに

想像力が……

 

……欠けていた

 

あなたがどう

感じるのか……”(※2)

 

朝の孤独を理解しない槙生の不器用な優しさは朝をひどく傷つけてしまう。よかれと思ってしたことが意図せず相手を傷つけてしまうことはありふれているけれど悲しいことだ。起こってしまうと「そうなる可能性は予想できたはず」というのもよくある話。

 

ヤマシタトモコは2018年に発行された『マンガ家になる!』(ゲンロン)の中でこう語っている。  

 

“デビューして最初についてくれた担当編集に「どんなマンガが描きたいか」と聞かれ、「ひととひとは絶対にわかりあえない。なぜわかりあえないのかを描きたい」と伝えましたけど、それはいまも同じです。”

“わかりあえないけど寄り添うところが、文明人の美しさだと思います。”(※3)

 

『違国日記』はこの思いが特にストレートに出ている作品だ。

朝も槙生も、周りの登場人物達もそれぞれがちがう国にいるちがう人間で、わかりあえないながらすこしずつ関わりあって笑いあったりしている。
その様子に読んでいて心がぎゅっとなる。

 

最終話で槙生は泣きながら朝に自分の思いを語る。槙生らしい回りくどい、ちょっと突き放したような言い方で言葉を尽くす。それは槙生の精一杯の愛の言葉であることを朝も読者ももうわかっている。

このシーンは是非作品を実際に読んでほしい。槙生のセリフも、それに対する朝の返しも、更に返す槙生の言葉も、その時の動きも表情も、すべてが素晴らしいので。

言葉にするとシンプルで、でもシンプルにしてしまうと零れ落ちる思いがたくさんあって、それをなんとかして伝えようとする人間が寄り添うところがとても美しい。

 

ヤマシタトモコは言葉の選び方が絶妙で、絵で見せるところはしっかり見せて、言葉と絵の掛け算による効果もものすごくうまい漫画家だと思っているのだが、そこが存分に堪能できる。
  

11巻を読んだ後に1巻をパラパラめくってみて、改めて言葉の使い方、最終話につながる構成力のすごさも感じた。

また1巻からじっくり読み返してこの物語をもう一度味わいたいと思う。

 

 

 

※1 『違国日記』ヤマシタトモコ、祥伝社、11巻62~64ページ

※2 『違国日記』ヤマシタトモコ、祥伝社、11巻66ページ

※3 『マンガ家になる!』さやわか/西島大介:編著、ゲンロン、120ページ

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