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士隼久さん「変身ピクニック」を読んで


まず思ったこととして、キャラクターの視線の先や引きの背景を丁寧に描いているから、常に5W1Hがわかりやすい。

そして、要所要所でしっかりキャラクターの表情のアップ、リアクションを入れている。例えば2p1コマ目で焦る主人公や、12p4コマ目の誇らしげなおじさん(女子)の表情。13p4コマ目の再びおにぎりを手にした主人公の喜びに満ちた目。故に読者はキャラクターの感情に入り込める。課題4にて掲示された「テンポとリズム」というテーマを踏まえた上で、煌びやかな演出でキャラクターの感情を彩った素晴らしい作品でした。

個人的にすごく良いな、と思った箇所は2つあります。

一つ目は、キャラクターの特性を自然に魅せる流れです。

主人公の男性は、押し付けられた残業を真面目にこなし、同期の高橋さんから労いとしてもらったおにぎりに子どものように喜ぶ。この時点で、「自己暗示にかかりやすいほど素直」という主人公の特性が、無理なく、しかもたった数コマで描かれている。見事な手腕だと思いました。

だからこそ、道端で寝ている女性を、疲れているにも関わらず不思議そうに気にかける冒頭のシーンも、主人公の素直な行動、かつ読者を惹きつける出だしとして完璧といえます。

更に、女性を気遣うと同時にちょっとした男心も表現することで、感情移入しやすい等身大の人間らしさも感じられる。

主人公だけでなく、同期の高橋さんも余ったからとおにぎりを手渡せる、自然体で素敵な女性だと察せられますし、この作品の要である「おじさん(女子)」も、強烈に惹きつけられる特異な存在ですが、中身は本人の言う通り「50代の男」であり、かつ、きっと普段は主人公と変わらない日常を送っている、もしくは送っていたんじゃないかなと勝手に思っています(違ったら申し訳ないです)。おじさん自身と正反対の歳若い娘さんに変身しているのも印象的です。もしかしたら本当に自分の娘の姿なのかな。だとしたら…などなど色々と想像の余地があるくらい、短いページ数で世界観の深度を感じさせる、読者としては楽しくて嬉しい部分ですね。

二つ目は、要素の組み合わせによって物語に意外性をもたらしていることです。

同期に「変身」してしまった主人公は、おじさん(女子)に導かれ、とあるビルの屋上で「ピクニック」をすることになります。「変身」と「ピクニック」、異なる二つの要素を組み合わせることで、こんなに朗らかで、かつ意外性のあるストーリーになることに驚きました。正直、どちらか一方の要素だけで終わる物語だとしたら、ここまでの感動にはならなかったと思います。

個人的な反省ですが、私は意外性と聞くと、それならば読者の予想を裏切るような、突飛で奇妙なストーリーにしないといけないんだ、と意気込んでしまいがちです。しかし、「変身ピクニック」は、主人公が「変身」しているからこそ、「ピクニック」という催しがいつもより特別な意味を内包している。普遍的な要素にひとつまみのファンタジーを加えることで、特別な料理になる。それこそがこの作品における意外性の答えなのかなと思っています。

また、気になる人に変身してピクニックするだけ、ではなくて、コンビニに行ってあの時食べたかったおにぎりを買い、息を切らせながらビルの階段を登ることで、屋上にたどり着いたときに爽やかなカタルシスをもたらすという、演出によって山場(見開き)に何段階も旨味が加わっていることも素晴らしかったです。

士隼さんは、日常に根付いた感情だったり存在だったりを、士隼さんの好奇心旺盛で柔らかい眼差しを通して原稿に映し出していると感じます。だからか、士隼さんの作品は夢のような、すこしふしぎなお話が多いのに、そこで描かれる感情は自然体で、読み終わった後にはいつもは鬱陶しかった朝日を穏やかに受け入れられるような感覚が心に残ります。今後の作品もとても楽しみです。

今回のワークショップ課題を通して、適当に感想を呟くのではなく、自分の作品に活かすための学びとして何を吸収するかが大事なのかなと感じています。よろしくお願い致します。 古西

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古西です。

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