課題10 完成稿の感想「全てのリミッターを外して好き放題マンガを描く」
課題10の「全てのリミッターを外して好き放題マンガを描く」の感想です。
2コマ目のグロテスクな感じや、3コマ目の人間の表情がネームより一層ダークな雰囲気を感じられました。
4コマ目で、顔に打たれた悪魔の血がついているので、人間のしたことの残酷さが強く伝わってくる気がしました。
状況がおもしろく、1話1話も、それぞれオチがあって読みやすくてよかったと思います。特に1話の「文字の世界」は、細かい文字がたくさん書かれていて、見るだけでも新鮮さがあって、楽しめました。7話「ひとめぼれ」の、「絵に描いたような美少女でしたね」「いや文字だったよ」のやり取りは、美人を表現する言葉と、人も文字になっている世界とのズレがおもしろかったです。
全てが字になっている世界なので背景が白くて、画面が少し簡素な印象を受けました。何か華やかさが加わると、読む楽しさがより高まるのではないかと思いました。
脇への熱い思いと、丁寧に描かれた脇が印象的でした。3p4コマ目の「幸い俺はイケメンだ」と心の中でつぶやく主人公の姿が、髪型とサングラスの感じからでしょうか、イケメンっぽいのですが、ちょっと野暮ったさもあるのがいいですね。
しわに「スリット」、光沢に「ハイライト」とフリガナが振られていたり、「ダブルスリット現象」という用語が登場したりと、格好よさそうな雰囲気が漂いつつも、格好よくなり切らない感じが、おもしろかったです。
また、登場する女の子では、4p4コマ目の女の子の頬っぺたと、表情がかわいらしくてよかったです。
最初から最後まで、ほぼどんな脇がいいのかという話のみで進んでいくのも、おもしろかったです。
主人公の情念みたいなものが、画面の外へとはみ出していく最終話が、特に印象的でした。
課長や主任の険しい顔つきがところどころで出てきますが、主人公のくるくると変化するコミカルな印象の表情が差しはさまるので、いい感じに緩急が効いているように感じられ、シリアスな感じに寄りすぎていなくて、読みやすかったです。
1p4コマ目の「今日も通常通り難聴対応だぁ」の場面や、5p5コマ目の「職場で赤ちゃんプレイすんな。」のシーンが、比較的シンプルな、かわいらしさを感じる絵柄だからだと思うのですが、その場面のモノローグの辛辣さが和らいでいるような気がしました。
3p4~6コマ目のじゃんけんのシーンでは、徐々にカイザーXさんにアップになって、彼女が追い詰められているような感じでしたが、次のページであしゅら会長が裸になっていて、予想を覆されておもしろかったです。
第5話のスープレックスするシーンも、勢いがありました。このシーンも告白するかと思いきや、ページをめくるとスープレックスをするという驚きがあっていいと思いました。
最後のコマの殴られているカイザーXさんが無表情なので、スープレックスされたり殴られたりと、そこそこかわいそうな目にあっているはずですが、痛々しさとか気の毒な感じがなくていいですね。
素朴な感じの線が、かわいらしい雰囲気の作品に合っていて、魅力的でした。
8p3コマ目の見上げるようなコマから、小紅ちゃんから見た、窓の外の世界の大きさが伝わってくるように感じられました。小紅ちゃんが雪をはじめて見る印象的なシーンなので、もっと大きなコマで描かれていても、いい感じになりそうだなと思いました。
11p5コマ目で、小紅ちゃんが持っている雪がキラキラと輝いているので、小紅ちゃんにとって雪が素敵なものであることが伝わってきました。次の12p1コマ目で「雪って面白いですね」と反応するシーンで、キャラクターの心情がしっかり分かるのがよかったです。
2pで描かれたジムの様子が、ボディビルダーに特化したジムとしては、天井から流れ落ちてきている滝みたいに見えるものがあり、なんとも不気味さを感じさせます。どんなことが起きるのだろうと、その不気味さがおもしろかったです。
6pでお尻のアップがドンとくるシーンが、インパクトがあってよかったと思います。
11p1コマ目のフォームを思い出すシーンで、ミヤジマさんの説明ではなく、お尻を思い出しているのもおもしろかったです。
12pで、一度の失敗ですぐにコツをつかんでいるウエダくんは結構センスがありそうな感じがしますね。もしかして、ウエダくんは運動ができる人なのではとちょっと思いました。
13pの終わりの「うおおおおおおお!!」と叫んでいるコマを、持ち上げようとして力んでいるシーンだと思ってしまったので、ウエダくんがデッドリフトができた瞬間をもっと強調してもいいのかなと思いました。
12pで主人公の黒木は吸血鬼になることを受け入れて血を飲みますが、結構展開が早めな感覚がありました。血を飲むのには抵抗感を感じそうですし、吸血鬼になるというのは、黒木の人生を左右する大きなことなので、何か迷いや躊躇する場面があってもいいような、そんな気がしました。
22pの「こんなに死ねないことが辛いなら今死んだ方が良くないか?」や、24pで「僕だってそこまでして生きる意味ないんじゃ」と黒木の心境の変化が、途中でモノローグとしてはさまれているので、彼の気持ちが分かりやすくて、よかったと思います。
ラストシーンで、ノアの気持ちを知って黒木に変化が起き、人を理解したいという気持ちが芽生えるのがいいですね。
それぞれのセリフをきちんと区別して読めたのですが、口調だけでなく書体がキャラクターごとに違っていたんですね。こういったところでも、読みやすさや分かりやすさは変わるんだなあと、興味深かったです。4pの2~5コマ目のシーンでは、「床・・・」「天井・・・」と言う二人の、どちらも顔がないのですが、アップになることで見つめ合っている様子が伝わってくるのがよかったです。
8p~9pのシーンで、コマが斜めに区切られて小さめのコマが連続しているからか、一気にクライマックスに向かって盛り上がっていくようなスピード感と勢いが感じられて、いいなと思いました。
巨大な陰謀が動いていそうな雰囲気があり、主人公が刺されてしまったりと全体的なトーンはシリアスなのですが、絵柄がかわいらしいからか、読み味は軽く感じました。
7pで出版社の人がどこかに電話をかけたり、17pでは藤代恵麻が誰かと電話をしていたりと、作品の中で起きる出来事や人物たちとの繋がりを感じさせるシーンがありながら、誰が何をしようしているのか核心の部分は分からないという謎を残した終わり方が、淡々とした雰囲気に合っているように思いました。
15pで、「あ、藤代恵麻だ」と看板を見あげている望月が、彼を襲わせたのが藤代恵麻だと知らないままなのが何とも切なく、このシーンが特に印象に残りました。
シンプルな絵になる10pからの展開は、絵のタッチが急に変わるのが驚きました。課題の内容を知らずに読むと、下書きが表示されているのかなと、とまどってしまうかもしれないので、演出でそうなっていることを、はっきりと分かるように描くと、展開をスムーズに理解できるようになっていいのではないかなと思いました。
リアルなタッチの絵と、とぼけた研究員や彼らの研究のおバカっぽさの噛み合わない感じが、読んでいて不思議で印象的でした。このちょっとズレた感じは、AI作画ならではの味みたいなものなのかなと、そんな風にも思いました。
中山墾さん『バイトに取り憑かれた男の話』
ネームとは違ったテイストで、親しみやすさが増していたように思いました。説明文で述べられているように、より間口が広くなった印象でした。ネームは「なんでまんがなんかやってんのか」という言葉ではじまって、漫画をどうして描くのかを自問自答していく内省的な場面が続いていきますが、完成稿は、主人公のキャラクターのコミカルな面が強調されていて、表情もユーモラスで、より取っつきやすくなった感じがしました。5~6pで少しシリアスになるものの、最終ページである12pの着地が、1p目のようなコミカルな雰囲気なので、読みやすかったです。
「バイトバイト」という口癖が残ってしまうとは、文字通り「取り憑かれた」感じがして、描かれた絵が、ちょっと煙のような、何かの霊のように見えてくる気がしました。
ネームにもよい部分は色々とありましたが、ネームと完成稿とどちらの方向性がよいのかは、どういう読者に届けたいかによって変わってくるのかなと、そんな風に感じました。
以上になります。課題がこれまでとは少し違う雰囲気がして、どう感想を書けばいいか、難しさを感じました。いつも難しいは難しいのですが、今回はまた別の難しさがあった気がします。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。